


祐天寺には魅力的な「角」が多い。角というのは道と道が出会う場所のこと。もちろんほかの街にも角はあるが、祐天寺のそれはまた格別だと思う。まじで。
これは、祐天寺が地形的に台地の際にあって道の形がやや変則的なことと、住宅が広がっているため細い生活道路が多いことによっていると思う。
今回はそんな魅力的な「角」に花を添える「カドイシ」を愛でてみよう。


角に置かれている石だから「カドイシ」。勝手に命名しました。
「カドイシ」とは何のことか。それは左の写真のようなもののことだ。分かるだろうか。わかるよね?
主に自動車が角を曲がるときに塀を傷つけたり敷地に乗り入れたりするのを防ぐために置かれる石のことだ。
なにが魅力的って、これらの石は住民の方の手によって設置されるため、きわめてDIYな佇まいを持っていることだ。家を建てる際にあらかじめ設計されておかれることは少ない。
よく「ペットは飼い主に似る」などというが、このカドイシにも設置したそこにお住まいの方の気質がにじみ出ているかもしれない。じっくりと愛でてみようと思う。

■さながらお地蔵さま

緑を守る形の良いカドイシ

東京銘菓「ひよこ」を思わせるフォルム
「カドイシ」と呼ぶだけあって(というかぼくがそう呼んでいるだけですが)、やはりマテリアルは石に限る。というのは、後述するように石でないものもあるのだ。
世の中には石を売る商売もあるが、基本的に石は拾ってくるもの。形もままならず、「ま、こんなところか」というように選ばれる。それが石の面白いところだ。すなわち石とはその存在、ボリュームそのものだけによって利用される。特にカドイシにおいては。しかし、それがいったん角を守られるために置かれたとたんに独特のオーラを漂わす唯一無二の存在となるのだ。
なんだかそれっぽいことを書いてしまった。自分でもなんでカドイシに惹かれるのかよく分からないのでつい饒舌になってしまうのだ。でも上の写真を見て欲しい。ぐっとくるでしょ?こない?おかしいな。
左のカドイシさんはカドイシのマスターピースと呼んでもいい。大きさ、形ともに名品である。ささやかな緑の空間を守る姿は小さな守護神のようである。
いっぽう右のものはかなり大ぶり。かたちも東京銘菓「ひよこ」を彷彿とさせるが、注目すべきはその足下である。ちなみに「ひよこ」ってもともとは福岡の銘菓だったそうですね。びっくり。
奥に敷かれているタイルよりも伝統と歴史を誇るカドイシらしく、彼を避けるような形になっている。しっかりとコンクリートで設置されている様子も頼もしい。さすが東京銘菓。
角を守って有余年。いたずらに動かさないところに、まるでお地蔵さまに対する敬意のようなものを感じる。

■大地の一部に

石というよりもはや地面が隆起したという佇まい
同じ石素材でも、より足場を強化するために地面とコンクリートでくっつけられたカドイシも多く見かける。
左はその典型。塀が角を切られた形になったために生まれたバミューダトライアングルにがっちりと置かれたカドイシ。車から壁をまもる頼もしいやつである。地面と一体化したその姿は石というよりもはや地面が隆起したかのような雰囲気に。中に石がいるさまを想像するとちょっとしたおまんじゅうのようにも見える。
見えませんか。ほら、石がアンコでコンクリートが皮、っていうかんじ。
接合部のコンクリートに亀裂が入っている点も見どころだ。亀の甲羅のようにも見えてくる。
かわいい。

壁とも一体化。コケとあいまって枯山水のよう。手前のコンクリートの剥げ具合に任務の過酷さがうかがえる

ゴツゴツとしたフォルムに「何が何でも壁を守る」という固い意志(石だけに)がうかがえる名品。かなり好き。壁の色とのコントラストもお見事

■金属ポールの「カドイシ」も

H鋼を巧みに利用した作品。きらいじゃないぜ
個人的にはカドイシの魅力はやはり石素材にあり、と思うのだが、街には多くの金属ポール型カドイシが存在する。ここ祐天寺でもそれは同じだ。
カドイシ鑑賞歴の長いぼくだが、これまであまりこのタイプには注目してこなかった。しかし、これらを無視してはもはやカドイシは語れない。これを機会にポール型も鑑賞してみよう。
たとえばこのポール型はH鋼を素材に選んだカドイシ。建物の壁および室外機を守っている。
カドイシ鑑賞家からすると、石にあるような「コントロールしきれない造形の面白味」には欠けるが、標高をかせげるとあって防御性能は高い。石素材の作品に、ときに「車に乗り上げられちゃうんじゃないか」というようなものがあるのに対し、この高さには安心感がある。子どもの頃から身長が低く、結局170cmに届かなかった筆者にとってはいささかねたましいやつらではある。


そのうらやましい高身長以外にも、ポール型において注目したいのはその色である。上をご覧いただきたい。
車を物理的に防御するのはもちろん、それを未然に防ぐべく派手な色で警告する、というのは石にはなかなかできない芸当である。別の街でむりやり真っ黄色に塗られた石素材のカドイシを発見したことがあるが、やはりちょっと無理があった。その点ポール型にはビビッドな装いをそつなく着こなす才能がある。これまた筆者にはうらやましいおしゃれさんの資質だ。

やや斜めになっている点や、その塗料の剥げ具合に年季を感じるポール型カドイシ。ごくろうさまです。

寄り添う兄弟のようなほほえましい作品。上部の黄色いストライプもかわいらしい。

石型とポール型とのハイブリッド、コンクリ柱型。これはけっこう好きだなー
石の素材感を大事にしつつも標高を稼ぐ、才色兼備の憎いヤツが祐天寺にいました。これはかなりすてき。
トラ縞も警告色パターンとしてはオーソドックスながらどこかキュート。これまでかなり体を張ってきたと思しき表面の削れ具合にもぐっときます。
今後注目のコンクリ柱型カドイシ。心に留めておきましょう。

■機能性を追求したタイプ
機能性には優れるが、鑑賞の観点からはあまりぐっとこないタイプのカドイシもある。大きなお世話ですが。すみません。下のような「柵タイプ」がそれだ。

ポール型にはない横方向への安心感も兼ね備えた柵タイプ。あまつさえ足下にグリーンをあしらうという小憎い演出も。

見るからに信頼感あふれるカドイシ。もはやカドイシとは呼べない設備的佇まい。あえて目立たないカラーリングに自信のほどがうかがえる。

■祐天寺で気に入ったもの2作品
さて、最後に祐天寺の街で出会ったカドイシさんたちの中で、ぼくがぐっときたものを2つご紹介しよう。

まるでモニュメントのよう。しかし過酷な環境がしのばれます。
ひとつめは左の作品。鋭角の角のため乗り上げる車が多いのでしょう。石プラスポールというコンビネーションプレイで挑んだ過酷な環境。しかし、あえなくポール型は敗退のようです。いまは石型が独り気を吐いています。
ボディは小粒ながら、いぶし銀と呼ぶにふさわしいその色合いとなおゴツゴツとしたとんがり具合を誇るカドイシにエールを送りたくなります。
背後の空間とあいまって、まるでモニュメントのよう。「祐天寺遺産」が設立されたあかつきにはこのカドイシを推したい。というか、「祐天寺遺産」ってなによ。

石型とポール型の結婚。両者の良いところが活かされています。夫婦とはかくありたいもの。
もうひとつは左。これも石とポールのコンビネーションですが、上の作品とは異なり、しっかりと結合しています。これはすてき。
石のどっしりとしたボリューム感と、ポール独特の色と標高との両方を活かしたもの。表面のコンクリートの手作り感あふれるテクスチャといい、ポールの塗料のくたびれ具合といい、文句の付けようがありません。
「祐天寺遺産」が設立されたあかつきにはこのカドイシも推したい。だから「祐天寺遺産」てなによ。

■祐天寺はつつましくも頼りがいのあるカドイシがある街でした

カドイシがないと、こうなる。
前回のテーマに引き続き、一般的に街の特徴を見る際にはまったく向いていないものを取り上げてしまった。しかし、こういう「どこにでもあるふつうのもの」にこそその街の特徴が色濃く表れると思うのだ。
ほんとか。
いや、たぶんほんとです。今回のカドイシでいうと、祐天寺はやっぱり落ち着いた大人の街だと思いました。ほんとに。だって、ほかの街だともっと素っ頓狂なカドイシがいっぱいあるもの。


1972年生まれ。

団地サイト「住宅都市整理公団」総裁。

ニフティ「デイリーポータルZ」の連載ほか、
NHK-BS「熱中時間」のレギュラーも勤める。

主な著書は「工場萌え」「団地の見究」(共に東京書籍)、「ジャンクション」(メディアファクトリー)、「高架下建築」(洋泉社)など。


