

![祐天寺・漁師の休息[後編]](img/uhodou/title_net_02.jpg)
【前編】から引き続き、祐天寺の漁師たちが繰り出す漁網収納のスタイルについて研究していきます。
いよいよ佳境。めくるめく祐天寺の漁師ワールドをご堪能ください。
「祐天寺の漁師たち」の意味が分からない方は【前編】からお読みください。

■壁や柵ばかりではない「ポールダンススタイル」

しっとりと電柱に巻き付くポールダンススタイル
少し以前、女性の間でスポーツとしてポールダンスが流行ったという。その点、祐天寺網収納界もトレンドに敏感なようだ。
塀、壁ぎわに並んで一大漁場として名高いのが、電柱周辺である。おのずと網の収納に電柱が利用されることになる。
壁と異なり、ポール状のものなだけに、収納携帯も単調なものになるかと思いきや、思いの外バリエーション豊か。巻き付きタイプ、縛りタイプ、その派生としての吊るしタイプ、などがここ祐天寺でも多く見られた。
ただ電柱は公共のものであり、かつより道路に対して近い位置となるなどの理由もあり、数の上では塀・壁派にやや後塵を拝する結果となっている。塀・壁派の牙城を崩す起爆剤となりうるか。今後の電柱派の動向から目が離せない。

電柱ならではの縛りタイプ。コンパクトにまとまったスタイルに新世代の風を感じる

サッカーボールか何かのネットを利用した縛りタイプ。位置の低さに、電柱に対する犬の習性行動による被害が懸念される。

こちらは吊るしタイプ。壁とはことなる佇まいを存分に楽しんで欲しい

実るほどに頭を垂れるポールダンスかな。

なぜとなりの電柱でダンスしなかったかお分かりだろうか。答えは下で。

ミノムシのようなダンスぶりがキュートだ。
ポールダンススタイルの最大の特徴は、道路側でない方に固定されるという点である。そばを通る通行人や車などに接触しないように、内側でつつましくダンスするのだ。
上のカーブミラーに巻き付いている網。なぜとなりの電柱でダンスしないのかというと、このポールの方がより道路から内側にあるからだ。ぐにゃりと曲がった柱造形をうまく生かした網収納プレイである。拍手を送りたい。

■網らしさきわまれり「流しスタイル」
前回の「吊るしスタイル」がより自由になったのがこの「流しスタイル」だ。「花は野にあるように活ける」というのが生け花の神髄らしいが、網収納もまたしかり。これまで紹介してきた各スタイルが人の手による造形であることを前面に押し出しているのに対し、この流しスタイルはまるで網が風に吹かれるがままにそこにあるかのようだ。日本らしい自然観が網収納に表れた一瞬である。

上部を柵にしっかりと固定しつつも裾は流す。にょろりと右にまとめて流すあたりはさすが

ポール系ならではの裾にボリュームが出るタイプの流しスタイル

右に通り道を確保しつつも距離のある流れを演出した好作

柵への固定部分に技が光る流しスタイル。その複雑な造形は網の特長を存分に活かしたもの

坂道プラス鋭角の曲がり角という地形を活かした流しスタイルの上級編

電柱から長めの紐でひっぱられつつ大胆に流れる、いまぼくが一番気に入っている流し作品

■逆転の発想「カルマン渦スタイル」
これはびっくり。これまでのスタイルがあくまで網を主体としてそれをどう形作るかに主眼が置かれていたのに対し、ここでは網を使ってポールをどう表現するかに挑戦している。これは逆転の発想だ。
一見ポールの足下に無造作に置かれているかに見える網たちだが、そのシルエットが表現するのは街という流れのなかに棒を一本差し込んだ際にできる渦だ。流体力学ではこれをカルマン渦というらしい。まさにこの網たちは祐天寺というひとつの流れをこのカルマン渦によって表したものなのだ。長年網鑑賞をやってきたぼくだが、この発想はなかった。脱帽である。
なんかだんだん分類が破れかぶれになってきている感があるが、ここは勢いで乗り切りたい。

左から右に流れる祐天寺の雄大な流れに消化器の足が差し込まれた際にできる渦を表現

こちらはかなり流れが急だ。大胆に広がる渦の表現はさすが

ゆるやかなせせらぎの表現か。壁との間にできた泡を表しているようだ

消化器に加え電柱と自転車もあるため渦も複雑な形に

■網の柔軟性を活用「押し込めスタイル」

ちょっとした隙間にぎゅう。
流れ広がり、丸められ、ぶら下がりもする。そんな網ならではの変幻自在さのもう一つのフォルムが「丸めて押し込める」だ。
よけいな手間などかけない。でも邪魔にならないようにしたい。そんなときちょっとした隙間にぎゅうと押し込めれば問題解決。
網の柔軟性を存分に活かした押し込めスタイルをご覧いただきたい。

押し込めスタイルのお手本のような作品

比較的几帳面に畳んで、イン

門と花壇の間に、イン。ちょろっと出た紐がキュート

電柱と柵の間という漁場らしいロケーションで、イン

ガレージのちょっとした隙間にインは定番で、

何ヶ所かでお目にかかることができます

■網だけに頼らない「箱入り娘スタイル」
ここで紹介するのは入れ物を使った収納スタイルである。これまでの網単体のあり方とはひと味違う雰囲気を見ていただきたい。

洗濯カゴを利用。ポイントは塀の高い位置に設置している点だ。

こちらもランドリーバッグを利用。赤い縁取りと網の黄色のコントラストが良い。

空き缶入れの箱を利用してコンパクトにまとめた好例。よく見られる箱入り娘スタイルだ。

電柱に結びつけられたままやや強引にダンクシュート。畳むことができないためワイルドな娘となっている。

■流れる雲のように「フリースタイル」
スタイル別として最後にご紹介したいのは、フリースタイルとでも呼ぶべきものである。
オンもしない、流しもしない、押し込めもしない。文字通りフリー。あるがままに任せた自由奔放な漁師風である。
誤解のないように申し上げておくが、いずれのフリースタイルケースも、敷地内や私道で展開されていて、公道でフリーしている例は見られなかった。フリーでありつつも節度は守る。ここらへんが祐天寺の素晴らしいところではないだろうか。

まさに休息と呼ぶにふさわしいのびのび具合。

段差に身を任せ、なににも頼らず横たわる網

フリースタイルはグリーンのそばにあることが多い

こちらも植え込みとコミュニケーション

草木と会話しているような網。午後の一時。

白い壁とブルーの網。一幅の絵のような佇まい

■お気に入りの網収納を3つ
最後までお付き合いいただきありがとうございました。よくがんばった。
最後にぼくが祐天寺でみつけた網収納で「これは!」と思ったものを3つご紹介して終わりにしよう。分類不可能なユニークスタイルである。

自作の網載せ台を設置。大事にされている網。

ポールに巻き付け、それを電柱に!ローリングとポールスタイルとの融合。

丸めてぎゅうぎゅうと隙間に詰め込む

ローリングと押し込みスタイルとの融合か

■祐天寺の網は上品だと思いました
カラスよけネットという微妙なテーマで自分でもどうなることかと思いましたが、案外街の性格を表すのではないかと思います。祐天寺はたぶんちゃんとした上品な大人の街だと思いますよ、これらネット見るとそれが分かる。
だって、むちゃなネットなかったですから。みんな、なんだかんだでちゃんと整理整頓してます。他の街だったらもっとぐちゃぐちゃなんじゃないでしょうか。
みなさんも、興味深い休息中の網みつけたらぼくに教えてください。


ずっとカラスよけネット探して歩いていると、うっかりこういうものもそれに見えてきちゃう。もう病気だ。


1972年生まれ。

団地サイト「住宅都市整理公団」総裁。

ニフティ「デイリーポータルZ」の連載ほか、
NHK-BS「熱中時間」のレギュラーも勤める。

主な著書は「工場萌え」「団地の見究」(共に東京書籍)、「ジャンクション」(メディアファクトリー)、「高架下建築」(洋泉社)など。


