


祐天寺にはたくさんの漁師がいることをご存じだろうか。おもに網で漁を行っているらしい。
今回は漁を終えた後のその網のしまい方について調査した。

祐天寺に海などないではないか、とお思いの皆さん。ぼくもはじめはそう思っていました。しかし、それは大間違い。東京の他の街と同じように、ここには大海原があるのです。
実際の漁の様子は、右の写真に。
どうですか、今日も大漁です。上に見える看板のようなものは大漁旗でしょうか。大海原にふさわしいブルーの網がまぶしい。

今日も大漁だ!
今回は、しっかりと獲物をつつみこむこの網に注目して、祐天寺界隈を歩いてみた次第です。
…と、なんだかとぼけた出だしになってしまいました。そうですよね、これはカラスよけネットですよね。いやあ、このネットの存在って非常に興味深いと思い漁網に見立ててみた次第。
念のため申し上げておきますが、マナーの良し悪しとか、街の景観とか、そういうものを云々したいわけではないのです。もはや日本中の多くの街に置かれているこのネットって、みなさんなるべく見ないふりをしていると思うのですが、ちゃんと見たら面白いと思うのですよ。たぶん海外の方が日本の街歩いたらまっさきに「これなに?」ってなると思うのです。日本の文化ですよ、これは。言い過ぎか。
というわけで、ご愛敬。なまあたたかくお読みください。

■すぐに使える「柵にオン スタイル」

無造作な中にも技が光る「柵にオン」スタイル。木の柵の風合いとビビッドな黄色い網のコントラストが見どころ。
さて、今回注目したいのは、漁の最中ではなく、仕事を終えた後の網の収納スタイルについてである。
その性質上、使わないからといって誰かの家の中にしまうわけにもいかない。いつでも簡単に広げられるよう、ややこしい収納は避けたい。
とはいえ、漁の最中でもないのにみっともなく広げておくのもはばかられる。漁場によっては通行人の邪魔になる場合もある。
そういうさまざまな配慮・シチュエーションから、収納スタイルに個性が表れる。それが興味深い。
今回祐天寺をくまなく歩き発見した収納風景を、いくつかのスタイルカテゴリに分類した。まずは「柵にオン」スタイルである。これは文字通り、漁場そばにある柵によっこらせ、と網の裾を乗せたもの。地面に広がるのを防ぎつつ、その収納アクションも簡単。漁場そばにはたいてい塀や柵などがある場合が多いのを巧みに利用した基本的スタイルである。

ワイルドさが心地よい「柵にオン」スタイルのマスターピースとでも呼ぶべき作品

柵上部の出っ張りをうまく利用した最小限のフックプレイ。手慣れた感じが心憎い

柵に留めてある部分がスライドするのを活かしたコンパクト・オン

漁場である道路から庭奥の勝手口に移動させ、そこにオン。無造作に見えるが手間がかかっている

ポストと塀の間を利用したコンパクト・オン。慎ましい姿である

歩道の柵にオン。下部で縛ってあるあたりに細かい配慮を感じる好作品

小さくまとめたいがそうすると落ちやすくなる。そこで別の紐できっちり固定。漁師さんの几帳面ぶりがうかがえる

塀にオンでもきっちりたたむ漁師さん。見習いたいものである

■柵にオンの進化形「ローリング スタイル」

柵にオンスタイルの流れを汲む、ロールの代表作
ワイルドさがウリだった、上記「柵にオンスタイル」。後半ではなかなか几帳面な漁師さんの作品をご紹介したが、この几帳面さを発展させたのが「ローリングスタイル」である。
柵にオンスタイルと同様、漁場そばの塀や柵に固定する手法だが、よりコンパクト感を重視した几帳面さがウリの一派である。手間がかかる分、プレイヤーが少ないようでここ祐天寺でもそれほど多くの事例を見ることができなかったが、今後隆盛の可能性がある注目スタイルである。ほんとか。

ぼくがローリングスタイルのなかで最も気に入っている作品。壁の中腹にロールするのは珍しい

こちらも「柵にオン」の名残が香る、ルーズめの作品。斜めの電柱とのコンビネーションがよい

高所からつるされたポールに巻き付けるスタイル

こちらもゆるふわ系。トレンドを巧みに取り入れた愛され網だ。

かなり几帳面にローリングしたうえに、それをフックで塀にオン!向かって右端の折れ曲がり具合がキュート

文句の付けようのないローリングプレイ。ローリングマスターピースである

■網らしさの追求「吊るしスタイル」

柵にオンしない自然派スタイル

網は流れるがままに任せよ、といった風情

こちらはあわやローリングか、といったところ

吊しつつも端正な雰囲気。手練れの漁師の手によるものか

素材感を活かした非常に網らしい佇まいに好感が持てる

網かなりの意欲作。小規模ながら吊るし最高峰の呼び声も高い

吊るしの極北。もはや塀と一体化した状態。すばらしい

柵にオンと吊るしのコラボレーション

■固定部分に注目するのも網鑑賞の醍醐味
さて、だいぶ網鑑賞もこなれてきたみなさんに、ちょっとした着眼ポイントを伝授しよう。というか、みんな、読んでる?ここまでついて来てる?
これまで網全体のスタイルに注目してきたが、網を塀や柵に固定している部分も見てみよう。漁師さんたちの苦労が偲ばれる意欲的な手法にめぐり合うことがある。

たとえば、左の網。全体的なシルエットとしてはオンスタイルとローリングスタイルとの折衷といったところだが、ボディーが柵ではなくブロック塀であるために、固定に難儀したようだ。
よく見ると塀の上にまず棒を一本渡して固定し、そこに網をくくりつけている。担当漁師さんの律儀さがうかがえる好作である。一見オーソドックスだが、固定手法に注目することでその良さが見えてくる。末永く大事にしたい網である。

これも一見吊るしスタイルの一種だが

よく見ると棒が渡してある。しかも突っ張り棒の流用だ。エクセレント!

塀に金具を設置。さらにその先端から電柱へと針金を渡すことで強度アップ。繊細さと、網の結び目のボリューム感との見事な共演

木立に紐を回し、そこに固定。網だけにあわやハンモックか、という佇まいに
固定法で興味深かったのが、カーテンレールの利用である。
最初発見したときはワン&オンリーかと思ったが、その後すぐに2件目を発見。いまのところ祐天寺に生息するカーテンスタイルでぼくが発見できたのはこの2件のみである。
今後流行の兆しが見えるクレバーな手法である。

これを発見したときには思わずうなり声をあげてしまった。

壁にカーテンレールを設置。そこに網をカーテナイズ。収納はコンパクトに、使用時はワイドに。グレイト!

後述する「ポールダンススタイル」との合わせ技。すばらしい。

こちらはカーテンレール自体を壁から吊ってある。新境地である。
固定法でもっとも驚いたのが、下の作品だ。ブロック塀の穴パーツ部分とビニール傘をうまく組み合わせた発明だ。

一見、後述する「流しスタイル」のようだが

この固定法に注目!ノーベル網固定賞を贈りたい
固定法に着目することの重要性がよく分かっていただけたと思う。祐天寺のエスプリに驚かされた瞬間でもある。いや、まじで。

どこからか潮の香りが漂ってきそうな本レポート、いかがだったでしょうか。今回は網鑑賞入門編という感じでここまで。いよいよ次回【後編】ではよりディープな祐天寺網事情に迫ります。


1972年生まれ。

団地サイト「住宅都市整理公団」総裁。

ニフティ「デイリーポータルZ」の連載ほか、
NHK-BS「熱中時間」のレギュラーも勤める。

主な著書は「工場萌え」「団地の見究」(共に東京書籍)、「ジャンクション」(メディアファクトリー)、「高架下建築」(洋泉社)など。


